第3話 <そんなお願い 第1章>

 帰宅した漣〈れん〉は自宅で目をつぶって考えこんでいた。

 

(この能力がいつまで使えるかは分からないし……やっぱり、セックスがしたいよな)

 

 漣が〈その日1つだけ常識改変ができる能力〉を使えることに気づいたのは1週間ほど前。

 ふとしたタイミングで直感的に使える気がして、それから小さな常識改変の実験を繰り返して、

・1日で1回しか使えない

・その1回の効力は夜中の12:00で終わる

・漠然すぎると効果が発揮されない上にその日の1回を消費してしまう

というルールに気づいた。

 

 そして、今日、初めて私欲のために大きな常識改変をした。

 

 最初は漣も大金を稼ぐようなことに使おうかとも考えたが、1日しか効力がないので高校生が大金を持つと後日整合性が取れないのと、そもそも大金を使ってしたいことがなかった。

(ふと手にした能力は、いつ無くなっても文句は言えない。この能力ありきで考えるのはあまりにリスクが大きいな……)

 

 そこで、漣が考えたのがエロの方面に使うことだった。興味はあったが、今まで親密な関係になった相手はいない。

 何よりその日限りのことにしやすいという点で、能力との相性が良かった。

 

(明日は、前に思いついたアレでいってみるかな……)

 

 

翌日

「父さん、母さん、今日は19時より前に帰ることがあれば、必ず自分に連絡して欲しいのですが、いいですか?」

 漣は朝食の場で父と母にそう切り出した。

 

 そして、それは了承された。

(うまくいってるようだな。普段であれば理由を聞いてくる場面だけど、疑問に思わず了承してくれた)

 

 漣がおこなった常識改変は〈三日月漣にお願いされたら必ず叶えてあげるのが常識〉というものだ。

 叶えるのが常識なので理由は聞くまでもない。

 

(あとは誰にお願いを聞いてもらうかだな)

 

 漣はいつもより少し早めに学校に到着し、まだ人がまばらの廊下を歩いていた。

「おはよう」

 新堂 茜〈しんどう あかね〉が笑顔で挨拶をしてきた。

 

 普段であれば、会釈くらいだったかもしれない。しかし、昨日、ランニング中の新堂さんを漣が声がけをした影響だろうか。

(新堂さんに特別な思い入れがあるわけじゃないけど、タイミングとしてはちょうどいいか)

 

「おはようございます。

あ、ちょっといいですか?」

「ん?いいわよ」

 新堂さんは立ち止まって、漣の方を向いた。

 

「実は前からちょっと新堂さんとは話してみたいと思っていたんです。今日の放課後に時間を作ってくれませんか?」

「構わないわ。……構わないけど、部活があるの。すぐに終わる話かしら?」

 新堂さんはすぐに了承した上で質問を返した。

 

「いや、部活の時間に影響がでちゃうかもしれませんね。でも、可能なら今日お願いしたいんです」

「わかったわ。じゃあ、部活は体調不良ってことで休んじゃうわ」

 新堂さんは小さく舌を出して、笑顔を見せた。その後、待ち合わせ等の約束をしてその場を離れた。

 

(導入はうまくいったな。本来なら部活を休むとはならないだろうけど、『今日は』問題ないってことだな)

 漣は内心では放課後のことに意識がいきながらも、表面上は何事もないかのごとく過ごしていった。

 

 放課後になり、人がまばらになったタイミングで新堂さんが話しかけてきた。

「三日月くん、朝言ってた話って何かな?」

「実はちょっと他の人がいると話しづらいんですよね。私の家でもいいですか?」

「わかったわ」

 普通であれば、カフェなど別の場所を希望してもおかしくない話だが、これもすぐに了承された。

 

 

 そして、2人は誰もいない漣の家に到着し、漣の部屋に入った。

「……男子の部屋なんて高校生になってからは初めてだわ」

 新堂さんは、なぜ自分がここにいるのか少し不思議に思っているかの様子だ。

 

「わざわざありがとうございます。折り入って相談したいことがありまして、今日の話は他言無用でお願いできますか?」

「もちろん他の人には言わないわ」

「ありがとうございます。私は実は将来は医師になりたいと思っています」

「医師?お医者さんってこと?やっぱり三日月くんって頭がいいのね。すごいわ」

 新堂さんは感心したように言った。医師になりたいというのは本当だ。

 

「そこで、新堂さんには女性の体について教えて欲しいのです。男性の体については理解できているので、違う部分について詳しく」

「え?それはネットで調べた方が私が説明するよりよっぽど……」

「いえ、新堂さんの体を使って説明して欲しいのです」

「……分かったわ」

 新堂さんは少し困った様子を見せたが、お願いを了承した。

 

「えーと……何だろ?女性は男性より母乳を出せるように胸部が大きい、とか?」

 新堂さんは困惑した様子を見せながら、自分のおっぱいを指して説明した。

 

「どれくらいの大きさですか?」

「え?それは人によって様々で……」

「新堂さんの場合で教えて貰えませんか?」

「…………Dカップよ」

 新堂さんは顔を少し赤くしながら、絞り出すように声を出した。

 

 そして、漣は緊張した様子がなるべく伝わらないよう出来る限り冷静に言った。

「……見せて貰えませんか?」

「……」

 新堂さんは顔を真っ赤にして俯いてしまった。

 

 漣の計画は、最低限の体裁を取るというものだ。無茶な要求をしたら、何故か新堂さんが叶えてくれたというスタンスにしておきたかった。

(流石に難しいか?でも、あんまりお願いしすぎると私が拝み倒したみたいに……)

 

「……わかったわ」

 漣が次の言葉を考えていると、新堂さんは顔をあげ、真っ赤な顔で少し目元が潤んだ様子を見せつつ言った。

 

 新堂さんは着ているシャツのボタンを上から2つゆっくり外した。

 そして、胸元のシャツを広げて言った。

「み……見える?」

 

 漣は努めて冷静に言った。

「全体像が見たいです」

 

 ヒュッと息を飲む音がして、新堂さんが固まった。そして、のろのろとボタンに手を伸ばしながら言った。

「……少し待って」

 

 漣はその様子をじっと眺めている。

 

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