最終話 <そんなお願い 第1章>

 あの日から3日がたった。

 

 漣はこまめに新堂さんの方に気を配るが、目が合うことは無く、これといっておかしな様子は見られなかった。

(忘れるようにお願いしたのは勿体なかったか……。いや、かなり強引な展開だったし、その日限りにした方が安心だよな。何だったら、また、機会を伺って……)

 漣はあの強烈の快感がふとしたタイミングで思い出され、その都度下半身を熱くしていた。

 

 1日が問題なく終わり、帰宅部の漣は部活や友達と遊ぶのに忙しい同級生を後目に教室を後にする。

「ちょ、ちょっと待って」

 漣は後ろから腕を掴まれた。

 

 新堂さんだった。

「どうしました?」

 漣は内心では驚いているが、努めて冷静に返答した。

「少し話がしたいの。……こっちに来て」

 新堂さんは漣の返事を聞かずに、漣の腕を引っ張って校舎裏の人気の無いところまで早足で移動する。

 漣は何度も転けそうになりながら、何とかついて行った。

 

「3日前のことなんだけど……」

 新堂さんは漣に話し始めた。

(え?覚えているのか?)

 漣は流石のポーカーフェイスが崩れていた。

 しかし、新堂さんは自分の言葉を紡ぐので精一杯で漣の様子を気にする余裕はない。

「私も変だったと思う。何であんな事言われて素直に従ったのか、いくら考えても本当に分からない!

でも……そもそも三日月くんのお願いも相当無茶苦茶だったと思うの」

「……」

 漣は、急なことに返答が思いつかない。

(忘れてってお願いしても、人は特定の記憶だけを意図的に忘れる事なんか出来ない。出来ないことをお願いされても、叶えられないってことかな……。

それより、問題は今をどう対処するかだけど……)

 

 漣が考えこんでいると、新堂さんが再び口を開く。

「私、初めてだったんだよ?その……セックスだってそうだけど、異性に裸を見せたことだって無かったのに……。それを勉強とか、触診とか……。そんなのって……」

 新堂さんは少し泣きそうな様子で言った。

 漣は頭をフル回転させてあらゆる選択肢を思い浮かべ、そこから1つを選択した。

「……すいません。素直に告白する勇気がなくて、建前が欲しかったんです」

「え??……こく、はく?」

 新堂さんはパッと顔を上げ、驚きの表情を見せる。

「ええ。私は新堂さんのことが前から好きで、話をしてみたかったですし、もっといえば、お付き合いをしたかったんですよね。

ただ、私も実際、家に誘ったらいろいろと空回りしてしまって……すいません」

 漣は申し訳無さそうに言った。

 

 新堂さんは少しの間、漣の言葉を理解するのに固まっていたが、少し笑顔になって言った。

「それなら……もっとこう順番とかあったでしょ?」

「ええ、おっしゃる通りです」

「……いきなり服を脱がせようとしたよね?」

「自分でも何であんな変なお願いをしたのかよく……」

 新堂さんは今までの苦悩が一気に落ちたかのように晴れやかな笑顔になった。

 

 そして、漣の目の前まで歩み寄り、漣に抱きついた。

「……ほんとしょうがないんだから。男の子は性欲が強いって言うけど、三日月くんも見た目とは裏腹に性欲が強すぎるよ」

「許してもらえますか?」

「んー、それはこれからの努力次第かなー」

 新堂さんは楽しそうに言った。

「……あんな変なお願いばかりしてしまいましたが、付き合っていただけるのですか?」

「もう最後までしちゃったしね……。初めてが付き合いもしない人との1回だけなんて……遊んでる子みたいじゃん。やだよ」

 漣にはあまり同意しかねる考え方だったが、言葉は挟まなかった。

 

「ねぇ、キスしてよ」

「え?」

 漣は急な話の切り替わりについていけない。

「経験済みだけど、ファーストキスはまだっておかしいでしょ?」

「え……ええ、そうですね」

 連には新堂さんの理論はあまり理解出来ていなかったが、取り敢えずして欲しいことは把握した。

 漣はゆっくりと新堂さんの顔に自分の顔を近づける。2人はしばし見つめ合った後、目を閉じて唇を重ねた。

 

「そういえば、部活は大丈夫なんですか?」

「私、部活は昨日で辞めちゃったの」

「そうなんですか?」

「私、運動神経も悪いし、体力もないしで、練習についていけなかったしね。何より最近、成績が落ちてきて、お母さんに部活を辞めて勉強しろってずっと言われてたの」

「そうだったんですか。

……勉強、一緒にしますか?少しなら教えられると思いますが」

「本当?学年1位に教えてもらえるなら助かるな」

 新堂さんは嬉しそうに言った。

 

「ええ。学校の図書館……は、少しでも私語があると怒られるので難しいですが、

例えば、私の家は両親が共働きなので、日中は自由に使えますよ?」

「……それで、またエッチなことしてくるんでしょ?」

 新堂さんはニヤニヤしながら言う。

「そんなつもりは……まぁ、勉強の後には少ししたいですかね」

「えー、どうしようかなー。三日月くん、少しじゃ全然済まなそうだしなー」

 2人は楽しく会話を続けたのだった。

 

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